BRAND HISTORY
どうせ作るなら、そのまま電車に乗っても違和感がない作業着を
弊社代表の三平が、異業種でありながらアパレルブランド「BRASH&BONDS(ブラッシュアンドボンズ)」を立ち上げた背景や、今後の展望についてインタビュアーに語りました。
きっかけは東京オリンピック。海外の作業員の姿に衝撃
ーーーー まず、今回アパレルブランドを始められることになった経緯を教えていただけますでしょうか?
もともとは自分で会社を起こしたいという思いがあり、解体業をメインに会社を立ち上げました。
その後、東京オリンピックの準備で土木事業も手掛けるようになったんですが、オリンピック関連の仕事で海外の作業員の方々と接する機会があり、彼らの服装がすごくカッコよく見えたんです。DickiesやCarharttといった海外のワークブランドのパンツにロンTを合わせるような、ラフでいて洗練されたスタイル。
日本のゼネコンの現場でよく見る、いわゆる「うわっぱり」とは全然違いました。
そういうことを経た上でアパレルを意識するようになった直接的なきっかけとしては、日本の建設業界の作業着に感じる「カッコ悪さ」だったと思います。
ーーーー 海外の作業員たちは、古着屋さんで売っているようなアイテムを、自然体で着こなしている感じでしょうか。
まさにそんな感じです。現場監督の方もラフな格好で、ストリート系のスタイルの方も多かったです。ブーツも、日本の安全靴とは違ってティンバーランドのようなおしゃれなものを履いていたり。それを見て、「電車に乗っても違和感がないような作業着を作りたい」と強く思うようになりました。
安全性とデザインの両立。日本の作業着の課題
ーーーー 日本の作業着は、どうしても「現場用」というイメージが先行してしまうデザインが多いですよね。
そうなんです。最近では様々なブランドが安全靴の分野に参入していますが、どうしても安全規定の基準が高く、つま先に金属などの耐衝撃材が入っていてシルエットが野暮ったくなってしまう。ナイキのエアフォースくらいのデザイン性があれば、もっとカッコいい安全靴やスニーカーが作れるんじゃないかと思っています。今後はそういった実験的なものづくりにも挑戦していきたいですね。ただ、日本の安全基準をどうクリアしていくかが大きな課題ですね。
ーーーー 安全性といえば、以前ブランドスタートする前に、「切れない・燃えない作業着」を開発されたと伺いました。
はい。正式な検査機関には出していませんが、実際に自分たちで溶接作業の際に着用してテストを重ねました。1年以上経った今でも、当時の作業着を着続けている社員もいます。火に対してはある程度の強度があると感じています。
切れないという点では、カッターなどで簡単に切れない程度というイメージです。全く切れないというのは現実的に難しいかもしれませんが、例えば万が一事故があったとしても軽傷で済むような、そんな作業着を目指していました。これは今も意識は変わりませんが、どうせ作るなら、働く人を守れるものを作りたいと思っています。
ーーーー その「細部へのこだわり」は、建築のお仕事にも共通していますか?
はい。お客様は35年という長いローンを組んで家を建てられます。私たちが現場に関わるのは1年程度かもしれませんが、お客様にとっては一生ものの買い物です。だからこそ、近隣の方々への配慮はもちろん、お客様が気づかないような細部にまでこだわりたい。すぐには気付いてはもらえなくても、いつか「いい仕事をしてくれたな」と思っていただけるように。そして、将来リフォームなどで別の業者が入った時にも、「前の業者はいい仕事をしているな」と思ってもらえるような仕事をしていきたいですね。
「仲間」との出会いがブランドを動かす力に
ーーーー ブランドを立ち上げようという構想は、最初からあったのでしょうか?
いえ、当初は全くありませんでした。きっかけは、行きつけの美容室のオーナーから現在商品の製造をしてくれているメーカーを紹介されたことです。「こういうものを作りたいんだ」という話をしたら、仲間のメーカーを紹介してくれたんです。最初はブランドというよりも、自分たちの作業着を作りたいという思いが強かったですね。
その後、オリンピックの準備期間中に、自分たちがデザインした作業着を着ていたら、海外の方から「面白いもの着てるね」と声をかけられたのが、大きなターニングポイントになりました。
ーーーー それがきっかけで、本格的にブランドとして動き出したのですね。
そうです。その言葉をヒントに、グラフィックが得意なスタッフの1人が忍者や天狗といった日本的なモチーフを取り入れたデザインを考え、海外の方への記念品として制作したんです。
それが好評で、今でもイギリスのイベント仮設事業会社「ESG」など、海外の企業との繋がりが続いています。彼らからは「ブランドを立ち上げたら教えてほしい」と言っていただいているので、将来的には海外展開も視野に入れています。
ーーーー ESG社は、世界的に見ても大きな企業ですよね。
はい、イベントの仮設事業では世界でも5本の指に入ると言われています。パリのパラリンピックにも関わっていますし、ESG Japanは大阪万博にも携わっています。そういった企業との繋がりも、今後のブランド展開において大きな力になると思っています。
ワークウェア市場への挑戦。「現場の意識を変えさせたい」
ーーーー 現在の日本のワークウェア市場については、どのようにお考えですか? 大手メーカーの製品が主流ですが、それ以外のものを求める需要を感じることはありますか?
需要を感じるというよりも、「意識を変えさせたい」という想いが強いですね。昔の作業着といえば、寅壱や関東鳶といったブランドが代表的でしたが、その寅壱ですら最近はWTAPSのようなブランドとコラボレーションしています。彼ら自身も、何か新しいものを生み出したい、変えていきたいという思いがあるからこそ、そういった動きをしているのだと思います。
ーーーー ブランド事業としては、どのような方向性を目指しているのでしょうか?
私たちが手掛けるものはストリート系のテイストが中心になるかもしれませんが、そうではないスタイルの服が好きな方もいらっしゃるでしょうし、それを作業着として着たいというニーズもあるはずです。好みは様々ですから。
将来的には、多様な要望にも応えられるような、オリジナリティと機能性を兼ね備えた製品を開発していきたいと考えています。まずは、自分たちが本当に着たいと思えるウェアから、丁寧に作っていくことが大切だと思っています。
ーーーー やはり、ものづくりにおいては「仲間」の存在が大きいのでしょうか。
まさにその通りです。会社を立ち上げて十数年、良いことも悪いことも経験してきましたが、本当に心から信用できる仲間がいなければ、新しいことに挑戦しても中途半端に終わってしまう。それは絶対に避けたいんです。建築事業を始めたのも、アパレルブランドを立ち上げたのも、全て信頼できる仲間がいたからこそ。
自分が優れているからではなく、その分野で優れた能力を持つ人と出会い、その人を心から信頼できた時に、初めて新しいチャレンジができると思っています。
それは、服の種類や分野が変わっても同じですね。
ーーーー 「BRASH&BONDS」というブランド名には、「絆」といった意味合いも込められていますよね。
そうですね。私たちがアパレルブランドを始めたのは、解体業という「失うもの」を扱う仕事だからこそ、一つ一つの工程を丁寧に、心を込めて行いたいという思いがあるからです。糸一本を縫う作業にも、その丁寧さを込めていきたい。
「どうせ解体屋が作った作業着だから、この程度だろう」とは思われたくないんです。
ブランドに関わる4人のスタッフも、その思いを共有し、一生懸命ものづくりに取り組んでくれています。100人のうち99人が気づかないような細部にもこだわり、一人でも多くの人に「良いものだ」と感じてもらえるような製品を届けたいと思っています。
今後は道具やヘルメットも。トータルで「カッコいい」現場スタイルを
ーーーー 今後、ウェア以外で開発してみたいアイテムはありますか?
やはりワークウェアなので、靴やヘルメットは作りたいですね。特にヘルメットは、日本のものはデザイン的にあまり好きではなくて…。スノーボード用や登山用のヘルメットのような、もっとスタイリッシュなものが作れたらと思っています。海外ではそういったデザインが当たり前なのですが、日本の安全企画とは異なるため、なかなか難しいのが現状です。でも、ストリート系の作業着に、いかにも建設業といったヘルメットを合わせるのは、やっぱりちょっとダサいじゃないですか(笑)。
ーーーー 確かに、トータルでのコーディネートは重要ですよね。
道具類も同じです。日本の道具は機能性を追求するあまり、デザイン性が犠牲になっているものが多いように感じます。色使いなども含めて、もっとカッコいいものが作れるはず。ブランドのスタッフは、そういったデザイン面にも鋭い感覚を持っているので、彼らの意見を取り入れながら、新しい道具の開発にも挑戦していきたいですね。
ーーーー 女性向けのワークウェア開発も考えていらっしゃるとか。
はい。妻がアパレル事業の担当をしているのですが、女性目線での作業着開発には大きな可能性があると思っています。来年、早ければ今年の秋には形にしたいですね。最近は建設業で働く女性も増えてきていますが、まだまだ環境が整っているとは言えません。「女性用にトイレを作りました」「更衣室を用意しました」という話も聞きますが、その前に**「まず着るものじゃないの?」**と思うんです。
ーーーー 確かに、女性向けのワークウェアは選択肢が少ないのが現状ですよね。
そうなんです。単にサイズを小さくしただけでは、本当の意味で女性が働きやすい作業着とは言えません。日本の建設業は長らく男性中心の社会だったので、作業着も男性の体型に合わせて作られてきました。それでは、女性が着た時にどうしても違和感が出てしまう。デザインやカラーリングはもちろん、汚れにくさや機能性にも配慮した、女性が本当に輝ける作業着を作りたいと思っています。
人に関わる仕事は全てやっていきたい
ーーーー アパレル以外にも、食育や教育といった分野にもご関心があると伺いました。
そうですね。「人に関わる仕事は全てやりたい」という思いがあります。例えば教育に関しても、自分がろくに勉強してこなかったからこそ、教える側に立つのではなく、本当に教えたいという情熱を持った人と一緒に何かをやりたい。
ーーーー 様々な分野への挑戦は、BRASH&BONDSというブランドにも良い影響を与えそうですね。
そう信じています。色々な経験や視点を取り入れることで、より深みのある、そして多くの人に共感してもらえるようなブランドに成長していけるのではないかと。結局は、何をするにも「仲間」「人」が大切。その思いを忘れずに、これからも様々なことに挑戦していきたいです。
「人に関わる仕事は全てやりたい」と語る代表の言葉通り、同社の挑戦はアパレルだけに留まらない。食育や教育といった分野にも関心を示し、常に新しい可能性を模索している。
その根底にあるのは、「仲間との絆」そして「細部へのこだわり」。
BRASH&BONDSが描く未来は、建設業界、そしてそれを取り巻く社会全体を、より豊かで魅力的なものに変えていく可能性を秘めている。